陰交(さんいんこう)」というツボがあります。当院でも不妊治療や逆子のお灸・安産灸の際に使います。
実はネットなどに、「妊娠初期にこのツボ(三陰交)にお灸をするとよくない」という情報があったりします。
三陰交だけでなく、鍼灸(はりきゅう)をしたら・マッサージ指圧をしたらダメ、という情報もあります。
妊娠してもずっとお灸を続けていたりツボを押したりして刺激していた人が、こんな情報を目にしたらビックリしますよね。
妊娠初期(妊娠中)にツボを刺激しても大丈夫!
もちろん三陰交へのお灸は体に影響を与えます。
そうでなければ私たちもそのツボにお灸をする意味がありません。
だからと言って、悪くさせることはありません。
ではなぜ、そのような都市伝説のような話しが生まれたのか。
火のないところには煙は立たないといいますが、次のようなことが背景にあると考えられます。
そもそも妊娠初期は不安定なもの
これだけ医学の進んだ現代でも、全ての妊娠の中で10~15%は妊娠が継続できなくなります。
これらの多くは、着床した受精卵が育たなかったり、異常な育ち方をした場合に妊娠を継続させることができなくなってしまうのです。
これは誰の責任でもなく、何をしたからダメだったということでもありません。
その受精卵に生きていく力が無かったというだけなのです。
しかし四ヶ月を過ぎた頃に安定期に入ります。
その理由は、妊娠四ヶ月頃に胎盤ができて母胎と胎児がつながるからです。
胎盤ができるということは、「ちゃんと育っている」 ということです。
妊娠と鍼灸(はりきゅう)施術
次に、妊娠と鍼灸施術との関係です。
古代から、五ヶ月を過ぎて(安定期に入ったら)、三陰交にお灸をする「安産灸」というものがあります。
安産灸は、お母さんと赤ちゃんの健康のためであったり、産後の肥立ちがよくなるとも言われているものです。
しかし安産灸をしたのが原因で悪いことが起こったという話しはありません。
都市伝説が生まれたわけ
妊娠初期にお灸をしたらよくない、という説が生まれた背景は、おそらく次のようなことからだと考えられます。
先にも述べましたが、医学の進んだ現代でも妊娠の10~15%は妊娠が継続できません。
古代もそれくらい、いや、それ以上の確率で妊娠が継続できないことがあったでしょう。
三陰交のお灸は特に女性の体にとても良い効果を与えます。
鍼灸師にとってはぜひともやっておきたい健康法なので、妊娠中もお灸を続けてやっていたはずです。
しかし、妊娠の10~15%は妊娠が継続しません。
そのとき、古代の人は「三陰交にお灸をしていたのがよくなかったのかも」と考えたのではないかと推測します。
そうれからは妊娠初期はお灸をすることを控え、胎盤ができて安定期を呼ばれる妊娠五ヶ月を過ぎたころから「安産灸」として、三陰交にお灸をするようになったのだと思います。
以上のことから、三陰交へのお灸についてそれほど神経質になる必要はありません。
しかし、お灸をするしないにかかわらず、妊娠が継続しない確率は10~15%はあるということを忘れないでください。
もし、その確率に当たったときにお灸してきたことを後悔するかもしれない人は、お灸をしないほうがよいでしょう。
このように、人間の思考は現代でもなんら変わりません。
妊娠・出産は、どれだけ医学が発展しようがコントロールできないことのほうが多いのです。
お灸、ツボの刺激をしても大丈夫!
最後にもう一度。
妊娠初期(妊娠中)にお灸やツボを刺激しても大丈夫です。
しかし、ここまで言っておいてなんですが、当院では妊娠初期~五ヶ月までの間はお灸を休んでもらっています。
本当に大丈夫ではあるのですが、それでも「お灸しても大丈夫かな?」という無用な心配を抱えてもらいたくない。そう考えているからです。
長々といろいろ書きましたが一番大事なことは…、
妊娠初期に、お灸をした・三陰交やその他のツボを押したりして刺激していた、そのようなことをしていた後から「ツボの刺激はよくない」という情報を得て心配しているかもしれない妊婦さんがいるということ。
そして、そんな妊婦さんに 「大丈夫なんだ。良かった。」 と安心していただくことです。